ゴールデンウィークの最終日。
水戸のアートワークスギャラリーで個展を開催中の折り、内海聖史さんにお話を伺ってきました。
エンターテイメントとしての絵画の方向性。空間と絵画との関係性。オリジナリティ溢れるアプローチについて、いろいろと興味深いお話が伺えました。
展示のレビューはこちらです。
−内海さんって空間に合わせた制作が多いみたいですよね。
「そうですね、というか、ほとんどそうですね。絵っていわゆる『パネルの四角』のなかで完結してるものではなくて、その絵がある部屋、つまり空間全体で観るものだと思うんですね。だったらそこを考えざるを得ない、と。だから今回も全部画廊を測り展示スペースの模型を作って、それからパネルの大きさを割り出して作りました」
−展示スペースの模型を実際に作るところから制作するくらい、空間に対して徹底しているんですね。
「模型はすごい便利ですよ。スペースの実寸もですが、コンセントの位置とかも含めてちゃんと把握できるんですね。感覚でやってしまうと、例えばひとつの壁を意識するばっかりにその壁の広さを見失うようなことがよくあるんですよ。だから、そういうのはあまり漠然としておきたくないんですね。それと、この展示する空間を規定のサイズの作品で構成するのはすごく不自由だな、と思ってて...自分が既成のサイズの画面に描くことに『理由』がないんですよね。僕と、例えば100号というサイズとはまったく関係のないものだと思うんですね。自分の絵のスタイルってそんなに変えられない、また、空間の形も変えられない。絵を見せる空間の要素として『絵』と『パネル』と『空間』とあるなかで、展示方法も含めた意味でパネルがいちばん自由なんですよね。パネルを空間と絵に合わせていけばいいんじゃないのかな、と思ってイメージを育てていった結果、今回はこういう感じになったんですよ」
−内海さんの作品は、やはり『現場』で観たいんですよね。今回もさすがに最初は『水戸ですか...遠いな』みたいな感じだったんですよ。でも『行かなきゃなぁ』と。
「ありがとうございます。たぶん写真だとこれだけの色面を体感することって少ないと思うんですよね、少ないというか、できない。多くの人に実際に観てもらうことは、僕らにとってもすごく大事な経験になると思うんです」
−この絵を別の空間で展示したらやっぱり意味が違ってきますよね。それはそれでまた、新しい提示の仕方が出てくるとは思うんですけど。
「そうですね。この絵自体は僕のモチベーションをこの空間へ向けて描いたものですけれど、展示までできたらもう完成した『絵』なんです。また別の場所で観ることで新しい発見もあると思うので、そういう機会があればいいな、と。僕自身観てみたいですし。また、この絵を観て、そのための空間なり展示計画を考える人がいたら面白いと思いますね」
−空間があって作品ができて、その作品からまた空間ができて、っていう連鎖。
「それが美しい方向に向かっていればそれでいいんじゃないかな、と思うし、もしここより美しい環境での展示があるとしたら、純粋にそれを観たいですね」
−そういうインスパイアのされ方って楽しいし、想像が膨らみますね。
「絵が絵だけで完結しない部分はその様な人の頭の中、つまり想像力にあると思うんですよね。今回、インテリアデザインをしてる方がいらっしゃった時に、『あ、こうやって使える、こうやって使える』って2時間くらいひとりで考えられてましたけれども、イメージの膨らみ方ってその人の経験によって変わってくると思うし、そういう引き出しで観ていく部分っていうのもあると思うんですよね」
−確かに、積み上げてきたイメージをぐっと広げてくれるような感じはありますね。
「ホントにそうだとありがたいですね。そう思っていただけると」
−そういうクリエイティブなエンターテイメントが提示されてると思うから遠くまで来ちゃうんでしょうね、やっぱり。僕は『そのアーティストが何ができるか』と考えるところからもっとイマジネーションを広げていけるのがリアルタイムのアートの面白いところでもあり、また大事かなって気もしてるんです。そういう意味では内海さんのやり方っていうのは、すごくユニークで、もっとこういうアーティストが増えてくると面白くなるんじゃないかな、と。
「僕自身、自分がやれることってすごく少ないなと思っていて。やれることが少ないんだったら、それを自分でちゃんと理解していかなければと思っているんですね。例えば絵は壁にかけるものという考え方も外して、自分から『他にこういうことできるんじゃないかな』というアプローチができたら、展開も広がると思うし、そのほうが楽しいと単純に思うんですよね」
−それにしても今回は『そう来たか!』っていう驚きがありました(笑)。
「僕もここの壁に立てて置く事も想像していたんですよね。でもそれは今までの僕のなかで想定できる部分なので、この床置き展示がある事で、また次が想定しにくなる。次にまた普通に、僕が100号の作品を壁に展示した時には『そうきたか!』ってなりますよね。そういうことが絵画の幅になっていくと思うんです。絵画ってけっこう『縛り』が多いってみんなに思われてるけれど、実際はそんなことはない。そういう
先入観があるが故に、抽象絵画っていう言葉に必ず『分からない』っていう言葉ががっちりとくっついているような気がするんですね。経験として抽象絵画を知っている人は、ホントに少ないと思うんです。だったらもっと絵の具自体の美しさとかを分かりやすく、見やすくするために、別の幅が必要なんじゃないかなっていう部分もあるんですよね」
−これは僕の主観なんですけど、アートがいまいち広がりきれない理由のひとつは『時間を提示していない』からだと思うんですよ。音楽や映画や小説は、それと過ごすためには時間が必然的に費やされる。でもアートって、それこそ2秒で終わっちゃう人もいれば、何日でもいっしょに過ごせる人もいたりして、それはもう観る側がその作品と過ごす時間を作り出さなければいけない。内海さんの作品には、例えばこういう床置きの作品もあれば、Aランチのときみたいにもっとアクロバティックな絵画の提示の仕方があり、普通のオーソドックスな壁の絵もあって、内海さんの作品の提示の仕方を連続して観ていくと『あ、今度はこうきたか!』って、他の作品がフラッシュバックしてくる。そういうかたちでイマジネーションを刺激されることで観ているほうが楽しい時間を作りだせるのもユニークだと思うんです。そしてさらに『この作品をあそこで観たらどうなるんだろう』という想像も膨らむんですよ。
「それは僕自身、この作品をあそこで観たいなっていうのはありますからね(笑)」
−ちなみにこれは、制作期間はどれくらいなんですか?
「1日に8時間とか10時間とか描く日を作り、かなり集中的に描いて、2ヶ月半くらいですね。パネル自体の制作期間はまた別で」
−色は相当重ねてあるんですか?
「はい。何層か重ねないと艶のある色にならないんですね。綿布自体が絵の具の油分を吸ってしまうので、第1層目は乾いたカサカサな感じなんですけど、それでも『きれいかな』と思った箇所はそのまま残っています。あと、最初から青で描いている部分じゃない部分、赤とか黄土色とか茶色とかで描いてる部分もいっぱいあるんですけど、2層目3層目になった時にやっと艶が出て、さらに重なりのなかで色の関係性も増えてきて、そのなかで自分が想像していたり狙っていた色とか、逆に狙いもしなかった意外な面白さが出てくるんです。なので最低3、4層は重ねないと、という感じですね」
−重ねることで得られるグラデーションやマチエルはかなり経験的なものもあったりして。
「そうですね。でも、すべてはコントロールできないですね。美しい部分ができたらそこに反応していくっていう感じですね」
−ミニマムな部分はその場その場で作り上げていくと。全体の大まかな構図はどのようにして考えるんですか?
「まず取っ掛かりとして『このサイズだったらこれくらいの絵の具の量が乗るな』っていうのを最初に想定します。それから、じゃあどこから描いていくか考えた時に、この床置きの展示方法だと、人がギャラリーに入って最初の視線の先はだいたい予想できますよね。全体的に青という印象の絵にしたかったので、その部分がスカスカだと青いって印象が薄らいじゃう可能性があるので、まずそこに多めに色を乗っけていって。で、自然光が窓側からたっぷり入ってくるので、白い『抜き』がその光との兼ね合いで透明な感じになるような構図にしています。もちろん入口が違う場所であれば構図も変わっていくものなんだろうな、と」
−そこから空間が大事になってくるんですね、絵の大きさも含めての。
「『大きい』というのは構図への影響も大きいと思うんですね。例えば手前に『抜け』の部分がいっぱいあったらぜんぜん空間の質が変わってくると思うので。もし窓に近い部分に青が多かったとしたらもっと暗い感じになるような気もするし、明るい感じにしようとするとやっぱり『抜け』がある程度の広さで必要で、逆に手前側は色のある面積が必要になるかな、と思ったんです」
−空間へ向かう意識のベクトルも考えて構成する。
「パネルを床に置いたことで、絵画自体にもそれが影響しているはずなんですよね」
−そういうことイメージしながら制作して、実際に展示してみた時に予想し得ないリアクションも生まれてたり。
「そうですね。自分である程度想定はしてはいたけれど、これだけの面積の『青』がここに置かれると、『あ、こうなるのか』っていうふうには思いますね。これまでに何回も大きな作品を描いてはいても、すべてを想像はできない。例えばアトリエではパネル3枚ぐらいでしか見えない関係性がこうやって十数枚揃った時に、『こういうふうな響き方してたんだな』っていうのはありますよね」
−こう床置きされると、上を歩いてみたいって気がしますね。
「それを言われる方はけっこういますね、『歩きたいなぁ。。。』って、僕もそうやって観てみたいなぁって(笑)」
−実際に上にいって移動しながら観てみるとたぶんもっと楽しいんじゃないかな、と。そういうイメージが浮かぶのも楽しいですね。
「一回、蝿が入ってきた時があって、絵の上を飛んでたんですよ。ちょうどその時観てた人が『蝿、うらやましいよね』って言ってて(笑)。確かにそうだな、と(笑)。あと、『強化ガラスを上に乗っけてやってくれない?』とかリクエストされて、『強化ガラスは一体いくらするんだよ!』って思ったりもするんですけど(笑)。でもそういうのって面白いな、と思いますよね」
−強化ガラスっていうのは僕も思ったんですよ。他にもジャングルジムみたいな遊具をこの上に置いてみたらどうなんだろう、とか。
「今までもいろんな方がいまして、クレーンゲームみたいなので吊られて観てみたい、とか(笑)。僕自身、跨いでいくような絵画の発想もあるんです、絵画自体を鑑賞するという観点でいったら難しいんですけど。それでも機会があったらそういう展示も、と思っているし」
−けっこうかれこれ長い時間ここにいますけれど、やっぱり飽きないんですよね。ミニマムな部分で見つかるものがすごく多いので。
「いろいろタッチの方向や色を変えてるっていうのはあるんですけど、例えば何人かの方が『きれいだね』って言った時に、みんな観てる部分が違っていると思うんですね。でも、それぞれが『美しい』であればそれでいいと思うし、人は美しいところを探していく、そういう能力があるんですよね。少し、その人にとって『美しくない』って感じるところがあったとしても、それを忘れて美しいところを探して記憶していく能力が人にはあると思っていて、それは『幸せな能力』だと思うので、そういうのを発揮してくれるといいな、って思うんです。そういう能力に頼るというか、それを喚起するような作品を作っていきたいですね」
−今回の展示をここの場所を離れて思い出す時に、たぶんここで過ごした時間を思い出すような気がするんですよ。絵を観たというよりは、ここにいたっていうことをすごく思い出すような気がして。そういう印象を残してくれる作品というのは貴重だと思っていて、そういう展示をていねいに見つけていきたいなと。内海さんの展示についていえば、大きさに意味があるというのも嬉しいんです。
「はい、『大きい』というのはやっぱり意味を持ちますよね。滝を説明するのに水道では無理だったり、海を説明するのに絵はがきでは無理な部分がたくさんあるんですよね。それらと同じように、大きな色面は実際に『経験』しないと分からないこともあると思うんです。あと、作家それぞれの絵画の作風にとって最適なスケールがあると思うんですね。僕の絵自体が持ってるものは、こういう大きさの展覧会で見せるほうが、より効力を発揮できる思っていて、それも大きくする理由のひとつなんです。小さくしてしまったら使える色が圧倒的に減ってしまう...この作品が100号くらいでできてたら、たぶん赤や黄色の部分が気になってしまって画面内に置けないと思うんですね。このサイズだからこそ、こういう色が置けて、それが結果として効果的に響いたりすると思うんですね」
−今回の展示が終わったら今度はどこになるんですか?
「次は、9月にレントゲンヴェルケ(ヴァイスフェルト)ですね。個展です」
−じゃあ、今はそれの準備で。
「そうですね、準備中です。また、でも次回はこういうふうにくるかは、今の時点ではまだ分からないですけど。」
−またいろいろと楽しみにしてます!
「ありがとうございます!」
(5/7、アートワークスギャラリーにて)
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〒103-0025 東京都中央区日本橋茅場町1-1-6 小浦第一ビル2階a
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Koura-Daiichi BLDG 2f-a, 1-1-6, Nihonbashi-Kayabacho, Chuo-ku, Tokyo, Japan
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2006年05月21日
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