大畑伸太郎個展「生活」
@YUKARI ART CONTEMPORARY
東京都目黒区鷹番2-5-2-1F
03-3712-1383
6/11(土)〜6/25(土)日月休
12:00〜18:00

Shintato Ohata solo exhibition "Everyday life"
@YUKARI ART CONTEMPORARY
2-5-2-1F,Takaban,Meguro-ku,Tokyo
03-3712-1383
6/11(Sat)-6/25(Sat) closed on Sunday and Monday
12:00-18:00
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この世界に会えることことの嬉しさは。。。
YUKARI ART CONTEMPORARYの3周年記念のグループショーから間隔を置かずに開催の大畑伸太郎さんの個展、やわらかくやさしいタッチを画面に積み重ねていって創出されるさまざまな情景、そこから奏でられる膨らむようなあたたかい気配に、また一方で漂うほんのりとセンチメンタルな雰囲気に、ふわりとほのぼのとした感動が心を観たし、そして胸を締め付けるようないとおしさのような感覚も広がっていきます。
入り口から続く壁面には4点の縦長の画面に描かれた作品が並び、それぞれにお馴染みのつぶらな瞳でこちらを見つめ、細い手足が印象的な女の子が佇んで、淡々とやさしくて切なげな時間を奏でます。
新宿、渋谷。見知った場所と分かることの嬉しさは、もしかしたら自分もそこに居合わせたかもしれないという淡い高揚となって心に灯ります。一方でそこがどこかは分からないけどそういう場所へのイメージは容易く脳裏に描き出される、そんな日常的な場所が表された画面では、むしろパーソナルな距離の近しさが思い起こされてくるようにも思えます。
デフォルメされる女の子のフォルムは、それぞれの情景における大畑さん独特のタッチで巧みに表現される臨場感によって際立ち、またその場所のリアリティも女の子の存在によってさらに深まります。そこにそれぞれ画面ごとに統一される色調が、季節感や、朝なのか夜なのか、そういうイメージもいっそう具体的に想起させてくれます。さまざまな要素が観る側の感覚をやわらかく包んでその世界へと意識を引き込み、誘ってくれるんです。
先に開催された3周年記念展で発表されたのに続き、今回も大人びた女性が登場する作品が。淡い気配が静かに広がる時間、そこにひとり佇んで空に目を向ける姿、ただ見上げる様子はしかし、どこか祈るような雰囲気も漂わせているように思えます。
ずっと向こうに広がる空の明るさは希望のようでもあり、青系統の色彩で構成されるその風景はいっそうの静けさを思わせてくれて、ひっそりと横たわる情景に観る側も淡々とと魅せられて、そして女性の心に寄り添い気持ちを同じくしてその女性の想いが叶うように、と願う感覚が満たしていきます。
駅のホームの一場面。佇む幼い女の子のかわいらしさが際立ち、観る者の胸を掴みます。
夕刻、ほっとした時間の緩やかさが暖色によって紡ぎ出され、また随所に描かれるハレーションを起こして光の輪が広がっている様子がその雰囲気をいっそう深め、臨場感もさらに強まって届いてきます。ホーム下の脚部や手すりなどの幾何学的な描写が多くひとつの画面に収められていることもこの情景にリズムを生み、また巧みな色使いによって陰影もしっかりと描き上げられて、複雑な構造がこの場面に広がるほのぼのとした空気感をさらに豊かにしているようにも感じられます。
DMにも採用された、大畑さんの独創性が際立ち、その世界観の真骨頂でもある立体と平面とを組み合わせた作品。これがホントに素晴らしいです。
手すりに腰掛ける女の子、そこにすり寄ってくる猫。
女の子の小首をかしげて猫に手を掲げる素朴な仕草も、猫のその手に顔を刷り寄せながら浮かべる恍惚とした表情も、そこに現れるかわいらしい要素の全てに頬が緩み、和まされます。夕焼け、一日が終わりの準備を始める時間の落ち着いた雰囲気も暖色と陰影によって色濃く表出し、遠くに広がる街並の緩やかな気配もやさしく響き渡ります。
奥のスペース、入り口に立った刹那に視界に届けられる情景の意表を突いた感じに驚きが生まれ、一気に意識も入り込んでいきます。
雨が止んだ夕空を見上げる女の子、その姿を天上から俯瞰するようなシチュエーションが唐突に提供されて戸惑い、そして痛快な想いが膨らみます。相変わらずの絶妙なリアリティ、女の子の姿は言うまでもなく、タイル敷きの歩道のリアリティも水たまりに映り込む電柱の構造の緻密さも、そこに現れるさまざまな要素が現実のイメージとスムーズに繋がっていって、目の前の光景へと意識もどんどん入り込んでいきます。
平面と立体が組み合わされることでひとつの作品にさまざまな角度で変化がもたらされ、それぞれの位置から眺めていろんなイメージが浮かんできます。軽く口を開いて空を見つめる女の子も、その表情はそれぞれにいろんな想いが届けられているように感じられ、それがこの情景への観る側の想いに深みをもたらし、さらに広げていきます。
今回の立体を組み合わせた作品を拝見し、あらためて大畑さんが画家としての矜持を強くお持ちであるように感じられたのも印象的です。平面の世界観を立体に起こしてクオリティとオリジナリティを高いところで両立させていることはいつもながらに唸らされます。そして立体が収まる作品でも、その色使いや陰影など立体だからこそ創出し得る表現を巧みに繰り出しながら、絵画としての世界をしっかりと保っているようにいっそう強く感じられたのも貴重に思えた次第です。