内海聖史展「さくらのなかりせば」”with”
@GALERIE ANDO
東京都渋谷区松濤1-26-23
03-5454-2015
4/5(火)〜4/23(土)日月休
11:30〜19:00

Satoshi Uchiumi exhibition 'Sakura no Nakariseba "with”'
@GALERIE ANDO
1-26-23Shoto,Shibuya-ku,Tokyo
03-5454-2015
4/5(Tue)-4/23(Sat) closed on Sunday and Monday
11:30-19:00
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もう何度も体感している内海聖史さんの世界。昨年も何度か作品を拝見する機会に恵まれてはいたものの、新作の個展を目にするのは一昨年以来となることもあり、無論今回の個展も楽しみで。しかも、同じスペースで3回目、というのは内海さんにとっても初めてとのことで、これまでこのスペースで開催された2度の展示での経験を踏まえ、今回はどのようにこのなかなかない構造の空間を解釈してくるかにも非常に興味を持ち、僕自身の期待も充分に高まっていました。
ギャラリーの入り口の扉に辿り着き、ガラス越しにスペースのなかを眺めた瞬間から一気に圧倒的な多幸感に包み込まれます。
今回の内海さんのメインの作品は、ピンクを基調とした8面のパネルに渡って展開される大作。ギャラリーに入ってまずそこに佇み、眼前に広がる鮮やかな光景に心が奪われます。空間全体も染め上げてしまうほどに明るく軽やかな色彩が溢れ、また桜の季節ということも相まって、ふわりと浮遊するような心地よい感覚が一気に膨らんでいきます。
やや甘い角度で接するふたつの壁面での展開がまず考えられ、それぞれ合わせるとふたつの壁面とちょうど同じ幅になるようにまずはキャンバスが用意されることが考えられたとのことで、しかしそれでは2面の壁に渡って展開される作品の中央部、すなわち自然にまず目が向かう部分が奥まってしまううことになってしまうため、そうならないように僅かにアールを描くような構造での展開に着手されたのだそう。壁面に沿って自然に丸まるように連なる画面はひとつの景色としてなんとも自然で、するりとその世界へと意識を誘うことにおおいに貢献しているように感じられます。
あたかも桜の森を空から俯瞰しているかのようなダイナミックな光景はただただ圧巻で、しかも内海さんの綿棒サイズのドットでの展開の作品としては今回のものが最大とのことで、この大きさにあってひたすらに一貫して凄まじい密度での展開が繰り出されていることにも感じ入ります。
しっかりと全像を拝見し、そこから至近で画面との対峙を。
意外にも、というかはやり、というか、全体としての圧倒的なピンクの印象とは裏腹に、至近で観ていくとそのピンク自体のバリエーションの凄まじい豊富さ、微妙な差異で濃淡が紡ぎ出されていることに唸らされ、またピンク系統以外の色彩も驚くほどふんだんに挿入されていて、そういった色彩の配置によってさまざまなコントラストやグラデーションがそこかしこに生まれていて、そのひとつひとつから獲得していく発見の量の多さにも呆然とさせられた次第。
大きく広がるピンクの色彩の奥に入り込むようにして、淡いグレーやブルー、内海さんの色彩という印象もあるグリーンやブラウンといった濃い色などが散見され、多幸感に満ちた画面のなかで激しいせめぎ合いも繰り広げられているようなイメージも届けられます。
さらに至近で眺めていって、そのマチエル自体の複雑さにも高揚させられます。
絵の具を付着させて画面に押し付けられる綿棒の感触、付いて離れる刹那の痕跡を思わせる小さな円形に沿って現れるミルククラウンのような立体的な盛り上がり。その密集と、重ねて打ち込まれるドットが重ねられるほうのエッジを壊していく感触。紡がれる時間の過程へと想いを馳せたときに、色彩におけるダイナミックな変化はもちろん、物理的な、立体的な構造の変遷も実にアグレッシブなイメージとなって好奇心を煽ってきます。しかもそれぞれの色彩の微妙な、はたまた大胆な差異それぞれでの衝突からもたらされる感覚も痛快で、それがこれだけの量で展開されていることを画面の前で実感し、あらためて気が遠くなったりも。。。
さらに興味深いのが、広いピンクの色面となった部分にたった1点配される別の色彩のドットの存在。そういった箇所がいくつかあり、アクセントとして非常に効いていて、その部分についてひとつの色面としての把握を許さない緊張感を醸し出します。
たったひとつの別の色彩のドットが、その広い色面に強力な視線の誘導を生み出します。ひとたびその部分に目が向かったとき、そのたったひとつのドットの存在に意識が奪われ、そこからだんだんと微妙で繊細な色彩や画面の表情からの発見を獲得していく、という流れがその都度導き出されていきます。
一瞬で、はっと掴まされる感覚とそこから緩やかに無限の質感が立ち上がって現れていく時間の経過は至高そのもの、ひたすらこの世界に感覚をゆだねて刺激を得続けていられたら、などという妄想も湧いてきます。
この大作ともう1点展示された小品。
スケール感こそ大きな差があるものの、色彩といいサイズといい、その存在はしっかりと主張していて、割合として多くを占める緑の色調とそこにふわりと乗るピンクの色面とが美しいコントラストを紡ぎ出しています。
伺えばピンクという色彩はいつか挑みたいと思われていたそうで、今回の個展は4月、すなわち人々がピンクという色彩にもっとも繊細に反応する季節、この色への感受性が高まっている時期ということもあってこの展開を実行されたとのこと。
コンパクトながらも比較的はっきりとした動線を備えたこの空間自体に、その構造を活かした展示が繰り広げられているだけに留まらず、季節的に観る側の感覚がどのうような状態かも踏まえられていることを知り、さらに深く感嘆させられた次第です。
ひたすらに抽象的で、それでいてこれだけキャッチーなイメージが提供されることにもあらためて唸らされます。