田幡浩一「trace of images」
@ギャラリー小柳
東京都中央区銀座1-7-5 小柳ビル8F
03-3561-1896
2/4(金)〜3/12(土)日月祝休
11:00〜19:00

Kouichi Tabata "trace of images"
@Gallery Koyanagi
1-7-5-8F,Ginza,Chuo-ku,Tokyo
03-3561-1896
2/4(Fri)-3/12(Sat) closed on Sunday,Monday and national holiday
11:00-19:00
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ギャラリー小柳での田幡浩一さんの個展です。
モチーフの「分解・拡散」による展開。小鳥やてんとう虫、椿などのような生命を持つ有機的なものは、それが平面におこされた時点では観る側の認識としてそのモチーフへの知識や記憶によってイメージが膨らみますが、それを線と色面との構造物と解釈してパーツごとに分解し、同一平面状に拡散、再配置することで、ネガティブな意味ではなく残酷なまでにそれが「色と線」でしかない事実をクールに提示しているように感じられるのが興味深く、そして再配置の絶妙さ、もとのかたちを巧みなアプローチを織り交ぜて認識させることで「拡散」を続けているような動的なイメージももたらしていることにも惹かれます。
アクリルのプレートにスクラッチが施されているお馴染みの手法の作品。
引かれる線のシャープさやそれに伴う強度は物理的にもひときわ鋭く現れ、それ自体が緊張感をそこにもたらします。そして、透明の画面に存在していることが、あたかも水面に浮かんで漂うようにゆらゆらと拡散をを続けているイメージも届けてくれて、提示される構造がある瞬間に起こった刹那的な配置のようにも思えて、その繊細な気配へも引き込まれます。
また、色面は裏側に描かれていたりして、そのアクリル板の厚み分の層の感覚が立体的な構造の印象もそこに生み出し、静かなイメージの深みを届けます。
椿を描いた作品。ひとつのアクリル板に3つのパターンが並べられることで、椿のモチーフを構築するパーツの拡散の過程が提示され、それぞれの間隔に起こっているイメージも自然と思い浮かんできます。
特に花びらの赤い色面の浮遊感に魅せられます。白い花びらに乗るちいさな赤の斑点も精緻に再現され、それらが漂っていく感触が実にスリリングに感じられ、緊張感を伴う繊細な気配がそこに導き出されます。あくまで淡々とした時間の経過でありながら、そこに独特の無機質な静寂感があるようにも思え、その深遠さにも惹かれます。
3層のアクリル板が重ねられた作品も。
立体的な構造のユニークさが際立ちます。
水晶の塊のようなモチーフが手前から奥にいくに従ってより大きく拡散していて、同一平面に並べて提示されているのとはまた異なる空間性がそこに生み出されています。奥へと、遠くへと行くごとにさらにもとの形状からかけ離れていくようなイメージも浮かんできつつ、さらにひとつひとつのパーツの軌跡を追ってアクリル板の間の部分を想像で補ったときに思い浮かぶ構造、その圧巻の複雑さも面白いです。
また、単純に正面やさまざまな角度から眺めていて、シルエットも含めていっそう複雑に入り乱れる鋭い線の混沌にも引き込まれます。
壁面に整然と並べて展示されるドローイング作品、こちらも圧巻です。
上からてんとう虫、サイコロ、トランプをモチーフとし、拡散のバリエーションが一列に提示されていて、画面1枚ごとの分解と再構築の面白さ、そこに注がれるクールさとユーモアに好奇心が煽られ、意識がのめり込んでいきます。それぞれのモチーフを構築するパーツがあたかも整然と団体行動を行っているかのように、さまざまな配列、フォーメーションを次々と痛快に繰り出していく様子が楽しいです。
エレベーターから正面方向の一角には、江國香織さんの小説「抱擁、あるいはライスには塩を」の連載で使用された挿絵の原画がずらりと並べて展示されていて、こちらも実に興味深いです。
主にコラージュが多く、ただし単純に画像を重ねたものではなく、そこにさまざまなアイデアが提示、展開されていて、そのひとつひとつのユニークさに唸らされます。線と色面の分解・拡散で繰り出す展開とはまた異なったかたちでのもともとの構造を再提示していく面白さ、そこに思いもよらぬ斬新な構造がさらりと提示されていたり、また隣り合う画面との関係性がそのアイデアの切り口の鋭さを思い起こさせてくれたりと、ここから得られる発見の全てが痛快です。
さらに、映像作品も。
柏でのグループショーなどでおそらく発表されている作品と思われるのですが、一瞬だけ白い画面に現れる線や色面の連続に目が釘付けになり、またこのサイズで上映されていることで得られる迫力にも圧倒されます。機関銃で連射していくような高速の展開が、その残像のみを追ってもとのモチーフを認識することを許さず、しかしそれが何であるかを知った上で観ていると瞬間で提示される部分が何とか認識できて、得難い時空のイメージに引き込まれていきます。
ひたすらに無機的であることが織り成す重厚で深遠な世界観。展開されるさまざまなアイデアは採用するモチーフのチョイスを含めてバラエティに富んでいながら、それらは一貫してクールであることに感じ入ります。