先月、六本木のヴァイスフェルトで開催されたカンノサカンさんの個展の際に、お時間を作っていただいてお話を伺ってきました。
ジャズミュ−ジシャンとしての活動歴もあるカンノさん。とにかく『制作すること』へのスタンスには大変感銘を受けました。
展示の感想はこちらです。
−まず作品そのものに関して伺いたいのですが、支持体はキャンバスですか?
「キャンバスですよ。パネル板にキャンバスを張ってます」
−で、下地があって、その上に特殊な塗料を。
「完全にそれだけではないんですけど、自動車の塗装と同じなんですよ」
−バックが白の作品は今回初めてなんですか?
「こんなにまとめて作ったのは初めてですね」
−描画の部分はアクリルで。
「そうですね、ガッシュで」
−それで、白の部分などがガッシュ特有のマッドな質感が出ているんですね。
「色によってはガッシュじゃないところもありますが、ガッシュのほうが筆致が残り難くフラットな仕上がりになるんですね。いまの技法でアクリルではぼこぼこする。それにこのような支持体に描いたとき、なぜかガッシュのほうが物質感があります。黒なんかはアクリルのほうが物質感は出るんですけど、他の色は、特に白は断然ガッシュのほうが物質感があります」
−今回の作品では、色は何種類くらい使われているんですか?
「青の作品は数えたら9色あって、赤も同じくらいだと思います。ただ、例えば同じ赤の絵の具にちょっと白混ぜたり黒混ぜたり赤を強くしたり、というやり方はあまりしてないんですよ。階調ははっきりと差を付けたほうがよくて、近い色でやるとぼやけたり斑のようになったりして効果的ではないんですね」
−ドローイングも結構なさってますよね。ペインティングはそれが基になっているですか?
「幕内さんも楽器やってらっしゃるからそのまま言えるんですけど、紙の作品やドローイングは楽器でいえば運指の練習なんですよ。セッション、本番のとき、より自由にプレイができるために、スケール練習をするという感覚ですね。作品をつくる“イメージング”を鍛錬している。ドローイングで下絵をつくってペインティングに写し取るってことは僕は退屈でできない。作ったものを再現する、っていう作業は性に合わないですね」
−キャパシティを広げて臨む感覚なんですね。やっぱりそういうところはジャズっぽいですね。
「たしかにこういう部分では『ジャズ的』とか『即興的』いう言葉を使えば分かりや すいかもしれないですね。イメージしている色や形を試してみて、かっこいいものを見つける...かっこいいことを体験的に知るというのは絶対必要だと思っていて、ドローイングはたぶんそういう意味合いなんでしょうね」
−カンノさんのファンってすごくいっぱいいると思うんですよね。初めて観た時は無条件に『かっこいいっ!』って思いましたから。
「ありがとうございます、『かっこいいな』って言われるのがいちばん嬉しいんですよ」
−すごく動的な感じもあり、俯瞰で観た時の全体の構成の面白さと、近付いて観た時のいろんなものが見つかる面白さとがあって。こういう形を描かれるようになったきっかけは何かあるんですか?
「以前から手癖のようにペンや鉛筆で描いていた線画ですね、それが基なんですよ。それをペインティングに昇華させて...もちろんそれらの線画での造形じゃぜんぜんダメなんで、それをブラッシュアップしていったり形をさらに発展させたり。最初の頃はモチーフが『単なる抽象的なものである』ということが、すごく罪なような気がしてたんですけど、最近はいい意味で、もうぜんぜん開き直ってます」
−このスタイルをよく提示してくださった!って感じがするんです。下地の物質感なんかも含めて、すごいオリジナリティを感じますし。それで、こういう複雑な造形の集合をかっこいいと思う『男の子』的な感覚を持ってる人は大勢いると思うんですよね。『あ、なんかこういうのをかっこいいと思う自分がいる』ということの再確認があって、そこからカンノさんの世界にのめり込んでいく感じがするんです。ところで、描画に定規は使われるんですか?
「ほとんど使わないんですけど、使ってるところもありますよ。全部手仕事であることにこだわりたいけど、そのこだわりでエッジを犠牲にしたくはないので、必要なところはテンプレートを使ったりします。ただ、下描きをしてその上をなぞっていくんじゃなくて、グリッドというか、ガイド的なものを付けていくんです。ある部分の際に同じものを付けたいっていう時や完全な直線を作りたい時には定規で線を引いたりする時もありますけど、ほとんどないですね。マスキングも描画については一切なしです」
−旧作を拝見すると、ちょっと失礼な言い方になってしまうかも知れないですけど、以前の作品と見比べると現在のは洗練されてきている感じがします。
「おっしゃる通り。絵画というものに立ち向かおうとする意識が、その頃と今とはまったく変わっているというのがすごくあるんです。以前はもっと生々しいプリミティブな状態、身体性がすごく出ている状態が好きだったかもしれません。ただそうしてできていく作品にもだんだんと既視感を感じるようになってきて、大きく変化をしてきたと思います。それが洗練なのかどうかはわかりませんが、既視感を避けながら色々なチャレンジを重ねていく過程、悪くいえば消去法のような面もあるのですが、そのような自己懐疑的な過程は何層も重ねてきてはいます。これは作家であれば皆少なからず感じることだとは思いますが、既視感は非常にやっかいなもので、強い既視感を感じた瞬間に、もうやっている意味をまったく感じなくなってしまうことがあります」
−人に似てしまうのが怖い感覚。
「というか、結果として似てしまうことが必ずしも悪いことではないのですが、立ち止まって自分と向き合ったときに、『いつか観たあれをやってるんだろうな』っていうことに潜在的に気付いているから抵抗があるんでしょうね。人物を描いたり、いろんなことやってみたいなと思って実際いろいろやりはしましたけれど」
−何かを踏まえてやってるような感じがしてしまう。
「そうですね。ホントのクリエーションというのはないんじゃないか、とも思ってるんですけど」
−紆余曲折があるんですね...。
「だから、今の時点ではすごく楽ですよ。もちろんそういう過程は必要だったんだろうし、またこれからも色々な意味で紆余曲折を繰返していくんだろうけど・・・」
−楽であることってすごく大事だと思うんですよ。確かにできないことをやるっていうのもひとつのモチベーションの保持の仕方だと思うし、それにチャレンジする意義も分かるんですけど、すごくリラックスした状態で生まれたもの面白かったら、たぶんそれに勝るものはないと僕は思うんです。
「ライブとかもそうですよね、いちばん難しいのはリラックスすることですよね。大抵リハのほうがいいじゃないですか(笑)。ライブはライブの良さもあるんですけど、結局正確にやれてるのはスタジオでのセッションのほう」
−例えば『ジャイアントステップス(※)』みたいな難曲を『頑張ってやってます!』みたいに演奏するよりは、ブルースやったほうが楽しくできるしクオリティも高かったりする。
「『ジャイアントステップス』をリラックスしてやってる人を見るとすごいなと思いますけどね(笑)。でも、そこだと思うんですよ。だから『そうはありたいな』とは思いますよね。そう思ってなきゃいけないなっていう。だから『ジャイアントステップス』をやるなら肩の力を抜いて、リラックスした状態でできるようになるまで徹底的にトレーニングして、ということですよね。60%くらいの力でならリラックスしてできるし楽しめる。そこで今の自分が50%、60%はどんなものかと振り返ると、それがひどいものだとしたら、その自分の50%、60%の質を上げればいいわけで、結局100%の質を上げなきゃいけないってことになってしまうんだけど。でもそういうことなんですよね、きっと」
−余力を残して面白いことができるのが最高ですよね。
「美術も大きな意味でいうと、観者がいるという意味ではエンターテイメントなんですけど、プロヘッショナルなエンターテイメントに関わる人間としてそれができれば最高でしょうね」
※『ジャイアントステップス』…John Coltrane作曲、オリジナルは同名のアルバムに収録。コード進行が複雑なジャズの難曲として有名。
(2006/4/19、ヴァイスフェルトにて)
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2006年05月04日
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ありがとうございました!!
ドローイングをいただいたんですー
額装が完成しましたというご連絡をいただいたので明日お迎えに行ってきます。
明日からの展覧会も楽しみです♪♪
勝手にTBして失礼いたしました。
明日からの展示も何やら楽しそうですね!僕も行こうと思っています。