@PANTALOON
大阪府大阪市北区中津3-17-14
6/7(日)〜6/28(日)月火休
水〜金:17:00〜21:00、土日:12:00〜19:00
Yukiko Nishiyama "at the edge of reflection"
@PANTALOON
3-17-14,Nakatsu,Osaka-shi,Osaka-fu
6/7(Sun)-6/28(Sun) closed on Monday and Tuesday
17:00-21:00(Saturday and Sunday:12:00-19:00)
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清々しく響き合う空気感。
PANTALOONでの西山裕希子さんの個展です。
作品のひとつひとつが持つ空間性のユニークさ、染織だからこその清潔感溢れる画面、新鮮で深遠な要素が豊かに重なって、思わず深呼吸したくなるような空間がもたらされているように感じられます。
ひとつの画面に、レイヤーのようにいくつかのモチーフが重ねて収められ、布の質感もそこに重なって、独特の奥行き感、立体的なイメージが生み出されています。
ていねいな線描によって描かれる手、写真からプリントされたコップ。今にも手にとりそうな瞬間をスローモーションで捉えたかのような臨場感に、右斜め上の短く細かい線がさらにそこに流れる気配や時間のイメージにリアリティをもたらしているように感じられます。
そして、小さな作品でありながら、壁面と空間に作用し、爽やか静かな情景を導き出しているように思えるのも印象的です。
2階には、アートコートギャラリーで拝見したのとほぼ同じインスタレーションが再現されています。
ただ、同一作品ではなく、同じモチーフを基に制作されているものの別のバージョンとのこと。
アートコートギャラリーでは通路部分の空間に展示されていて、たっぷりと注がれる自然光を受けつつ、どこか文学的な響きを奏でていたのが印象に残っていますが、こちらではさらに白い空間ということもあって、例えるとリミックスのような展開のように思えてその雰囲気が心地よく、そして興味深く感じられます。
椅子の上に置かれた作品、髪をとかす女性の後ろ姿をシンプルに線で表現し、長い髪の毛の流れをおよそ数えられるほどの本数で描き上げ、さらにこちらも必要最小限の線の数で表現される服のしわがもたらすリアリティ、さらに裾の部分にわずかに現れる色面が、まるで気の利いた小説のなかにある短いセンテンスでの描写のようで、すっとそのシーンを思い浮かばせてくれるようなナチュラルなイメージの広がりが心地よいです。
椅子の上に置かれていることも、さまざまな想いをもたらしてくれます。
もう少し奥へと進むと、今度は鏡だけの作品が現れます。
鏡のなかに、まるである瞬間を引っ掻くようにして残される場面。
そこを過ぎ去った想い。深遠な物語性を情感豊かに紡ぎ出しているように思え、さらに鏡という素材の独特の気配がその物語の奥行きをさらに深めているようにも感じられます。
このスペースの突き当たりにふたたび染織による作品が。
シンプルな線で引き出される清々しい情景が印象的です。
もうひとつの2階のスペースには、対の構成による染織作品が展示されていて、コンパクトなスペースに豊かな空間性を導き出しています。
画面ごとの大胆な構成。大きな余白が、横たわる人の姿を際立たせるだけでなく、抜けるような画面の白さに隠されたさまざまな風景を思い起こさせてくれ、それぞれの画面で微妙にずらされる位置が、おおらかな時間の流れの存在を思い起こさせてくれるんです。
西山さんの作品は染織であり、ほぼ線描で構成されていながら、それらはただ線が引かれたのではなく、蝋で染める線の部分を細かく残していきながら少しずつ染めていく、という実に気の遠くなるような過程を経て制作されています。しかし、最後に蝋を洗い落とすという行程が入ることでより清らかな画面が生み出され、染織の秘める力がしっかりと作品の美しさへと反映されて、豊かな空間性をもたらしているように感じられます。
さらに、鏡の作品があることで、布の質感からもさまざまな想いを促します。
伺った時間はまだ陽が高く、窓からも自然光が入り込んで、画面の布の白さがケレン味なく光を反射し、その効果が空間全体に作用していっそうの清々しい空気感を演出しているようにも思えます。まったく異なる鏡の反射の質感とのコントラストも、そこかしこに現れる物語性に深みを生み出します。
ひとつのストーリーのなかに入り込み、さまざまなイメージが促されながら、充実した時間を通り過ぎていったような後味も心地よく感じられる展覧会です。
さまざまな空間での響きを体感してみたいクリエイションです。