@ラディウムーレントゲンヴェルケ
東京都中央区日本橋馬喰町2-5-17
5/8(金)〜5/30(土)日月祝休
11:00〜19:00
Hideyuki Sawayanagi FISSION - FUSION
@Radi-um von Roentgenwerke AG
2-5-17,Nihonbashi-bakurocho,Chuo-ku,Tokyo
5/8(Fri)-5/30(Sat) closed on Sunday,Monday and national holiday
11:00-19:00
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理詰めのアプローチが生み出すシャープなインパクト。
ラディウムーレントゲンヴェルケでの澤柳英行さんの個展です。
1階、いつもの朱赤の扉を押して中へ入ると出迎えてくれる、流し目の女性。
天井から吊り下げられ、素材の硬質な感触と壁面に映し出される影の妖し気な静けさとに、すっと引き寄せられます。
至近で眺めると、美しい女性の表情が消え、中心が整然と並ぶ大きさの異なるホールの無機的な感触に加え、今度は美しく磨き上げられた金属面の煌めきが「モノ」としてのケレン味ない存在感で迫り、異なるインパクトがもたらされます。
階上へと向かう刹那、今度はあたかも雲影のような風合いの、不思議な時間の経過のイメージを奏でる作品が。
漢数字の「一」を筆で書いたかのようなフォルム、その両端に浮かぶ女性の表情。右側は強い視線を送り、一方左側は官能の表情を浮かべ、そのふたつが空気の中の塵によって繋がれているかのような、立体的な時間の流れを思い起こさせる不思議な世界。ふたつの顔をつなぐ部分に見受けられる星形のような穴は、壁面に映る影で歪む時空のように艶かしい濃淡を生み出し、それがたった1枚のプレートのなかに濃密な物語性をもたらしているように感じられます。
ここから、さらに大きなサイズの作品が続きます。
かたちのユニークさは、さらに有機的な複雑さで展開され、硬質な素材の質感とのギャップを一双深めていくような印象が痛快です。
あたかも液状、飛び散る飛沫のようなフォルム。
真ん中の顔からそれぞれ四方に飛び広がり、異なる表情となってひとつの心が持つさまざまな想いが現れるような感触がもたらされます。
この空間の正面奥の壁面に展示された作品も圧巻です。
中央に浮かぶ、こちらを静かに見据える表情。そこからスパークする火花のような広がりが、何か強大な気配を思い起こさせてくれます。
背後に広がる淡い影も繊細な美しさをたたえています。
至近で拝見するとその地位から強さにさらに圧倒されます。
中央の顔の部分から広がる複雑なかたち、これらを構成する無数のホールはそれ自体が複雑にうごめき、凝縮と離散を繰り替えしているかのような動的な印象を一見受けますが、それすらすべて、その穴の中心部分で整然と配列されていることに気付かされ、簡単させられます。ある角度から眺めたときに見つかる列の無機的な存在感の冷徹さには分かっていても驚愕させられ、背筋に電気が走るようなスリルを感じます。
さまざまな美しさが潜むクリエイションです。
徹底して研磨されることで導きだされる素材の美しさ。正面から対峙すると自身の姿が鏡面を化したプレートにしっかりと映り込み、微妙な撓みと無数の穴による平面的な欠落で、不思議に歪んだ姿として提示されるのも、作品それぞれが持つ妖艶でスリリングな世界観と相まって興味深いイメージがもたらされるように思えます。
さらに、ホールの配列の緊張感が放つ美しさ、そしてこの金属のプレートのエッジのシャープな美しさにも強く惹かれます。すべてのホールのひとつひとつの円形としての安定感、敢えてひとつのホールを抽出して眺めたときに、数ミリの厚みをもつ円環としてのシャープさに感嘆させられ、この精度が連なってひとつの大きな情景を導きだしているのかと考えるとさらに深く感じ入る次第で。
そして、全体の世界観の面白さも。
至近で眺めた時の硬質な面白さから一転し、さまざまな女性の表情が生み出されている事実、そしてそれに気付いた瞬間の驚きは格別です。
新聞などに掲載される、ドットの大きさで濃淡がつけられる写真と同じ理屈で提示される情景は、理屈で捉えると確かに理解できるのですが、素材の重厚感に加え、素材が持つ美しさを徹底した研磨によってさらに押し出すなどによって深いギャップが生み出され、それがスリルとなって世界観に転化される感触は実に痛快です。
また、空間的な面白さにも溢れています。
そこかしこに潜むアクロバティックな情景にも大いに楽しませられた感じも嬉しいです。